2011年9月18日「猫とハーモニカ」前でパンフルート演奏会開催。
詳細はこちら → 「猫とハーモニカ」前でパンフルート演奏会  

「猫とハーモニカ」の像に耳がある  

今にして思えば、謎の彫刻「猫とハーモニカ」である。長い間、中島公園にある彫刻の一つとして親しんできたが、どうして、こうなってしまったのだろう?


中島公園百花園の「猫とハーモニカ」 札幌市公文書館所蔵

この彫刻を見て「おやっ! 猫に耳がある」と思う人は中島公園の彫刻通だ。「猫に耳があって当たり前」と思う方は、後から出てくる「猫とハーモニカ」の画像に注目して頂きたい。 今となっては耳のある写真は貴重な存在である。

曲を奏でるハーモニカか、食べられるパンか?

中島公園を10年も散歩していると、内気な私でも何人かの散歩者と知り合いになれる。会えばいろいろ話もある。

「中島公園に猫の銅像あるの知ってる」散歩仲間のAさんに聞かれた。
「銅でなくコンクリートでしょう」
「そんなことどうでもいいの。猫がパン食べてるやつよ」
「パンじゃあなくて、ハーモニカを吹いているんですよ」
「ハーモニカじゃないよ。絶対にパン」
「ハーモニカです」
「あんなハーモニカ見たことないよ」

悪い人ではないが、一度言い出したら後に引かないから困る。どの参考書にも山内壮夫作「猫とハーモニカ」と書いてあるのだ。自分の思い込みと、勘だけでものを言わないでほしい。

しかし、この野外彫刻にも銘板はないので、Aさんがパンと言い張れば私の負けになる。力ずくではAさんに敵わないのだ。せっかく正しい作品名を教えてあげようと思ったのにガッカリした。しかし、今にして思えば、Aさんの勘が私の知識より勝っていた。


中島公園の猫は水辺が好き。オリジナル画像提供、札幌の平川さん。

猫は不思議だが人も不思議かも知れない

猫は不思議な動物だ。カラスと一緒に水辺で遊んでいたかと思うと、地上3メートルの木の洞で赤ちゃんを育てたりする。

一体どうやって餌を運ぶのだろう。多分母猫が木登りしてだと思う。 

しかし、何でこんな所で子育てするのかサッパリ分からない。

左の画像は2010年6月8日、中島公園の林で撮ったもの。 

下に拡大してみたが、どう見ても子猫。リスには見えない。第一、中島公園にリスは棲息していない。

他にも不思議なことはある。菖蒲池の中にある、直径10メートルもない、小さな中島で子育てしている猫もいたのだ。周りは水、餌はどうするのだろう。

だから、私は猫に関しては何が起ころうが否定する気にはなれない。

猫がハーモニカを吹いて楽しんでいると聞いても、それもあるかも知れないと思ってしまう。猫は人が思っているより能力は高いかも知れない?

「牧神パン」とは どんなパン?

ある日、彫刻に詳しいBさんから1枚の文書を見せられた。
「ひょっとして貴方も興味があるかと思ってね。猫とハーモニカのことだけど、どうもハーモニカではないようです」

手に取った文書には大きな見出しで「牧神パン」と書いてあるので、ビックリした。そんなパンがあるとは知らなかった。

「それみなさい。やっぱりパンでしょう」と
散歩仲間Aさんの勝ち誇った顔が目に浮かぶ。 

「パンでもハーモニカでもどっちでもいいでしょう」
と思うのは第三者。当事者としてはとても悔しいことなのだ。

「牧神パン」についての文書を、よく読んでみると次の事実が分かった。第一に「牧神パン」という名の、食べられるパンはない。パンはギリシャ神話の神でパーンと発音されることもある。 

「パンの笛」とは、パンという牧神(半獣神)が作った笛といわれている。そして彫刻「猫とハーモニカ」の猫がくわえているのは、ハーモニカでもパンでもなく「パンの笛」である。 

これでは、散歩仲間のAさんと私の勝負は引き分けになってしまう。「中島パフェ」管理人としてはまことに不本意な、負けに等しい引き分けである。こんなことでは終わりたくない。更に調べることにした。

「パンの笛」の演奏者が笛の音とともに現れる

果報は寝て待てとはよく言ったものだ。調べようとは思ったが面倒なので放って置いた。寝ていたようなものだ。そんなときタイミングよく、Bさんからメールが来た。 

「……『猫とハーモニカ』のハーモニカは『パンの笛』でした。この楽器は実在しております。何と、パンの笛を自作して演奏をしている方にお会いしました。日曜日午後に中島公園にいらっしゃるそうです。ご都合が良ければ、中島公園にいらっしゃいませんか?」

ハーモニカでないのは残念だが、楽器であることに違いはない。ひょっとしたら元祖ハーモニカかも知れない。ともかくパン屋で売っているパンとは大違いだ。今度こそAさんにギャフンと言わしてやるぞ!

しかし、もしそれが「パンの笛」なら、吹いているのは猫でなく牧神パンでなくてはならない。一体誰が「猫とハーモニカ」と名付けたのだろう?

待ちに待ったその日がやって来た。中島公園菖蒲池の看板のあるベンチで待っていると、柔らかい笛の音が聞こえてきた。

「パンの笛の音色ですよ」とBさんが言うので、少し歩いて反対側の岸に行ってみると、若い男性が演奏する姿が見えた。初めて聴くパンの笛は素晴らしい。しばらく聴き惚れていた。


「パンの笛」を奏でる人、聴き惚れる人。中島公園菖蒲池西岸。


これが、牧神パンの笛♪ パンの~ふ~え~♪  


何か書いてあるので、拡大してみた。そこには格好いい横文字が…。

「猫とハーモニカ」の前でパンフルートの演奏を聴く

「パンの笛」を演奏していたのは、愛媛県在住で、芸名が竹笛太郎さんという方。札幌には会社の出張でよく来られるそうだ。 

竹笛太郎さんは、アマチュアのパンフルート演奏家で知識は深く、いろいろなことを教えてくれた。 

「パンの笛」は、世界最古の管楽器で一般的にはパンフルートと言われている。広島で盛んで、日本にもプロの演奏者が10人ほどいる。

そして、例の彫刻はハーモニカではなく「牧神パンの笛」であると断言してくれた。

竹笛太郎さんの好意で「猫とハーモニカ」の前で、パンフルートの演奏を聴く機会に恵まれた。曲はスペイン・カタロニア民謡「鳥の歌」。

ギリシャ神話の世界に思いを馳せ、独特の美しさのあるパンフルートの音色を聴いていると、そこには猫もハーモニカも見えない。 いうまでもなく、牧神パンの笛が浮かんでくるだけである。 


「猫とハーモニカ」前で「鳥の歌」を演奏。スペインの民謡だそうだ。

竹笛太郎さんに「鳥のうた」「パンの笛」について質問

記憶を頼りに自分なりに「パンの笛」について書いてみたが、なんとも心もとない。思い切って、竹笛太郎さんに尋ねると丁寧な回答を頂いた。

「『鳥の歌』の原曲はスペイン カタロニア地方の民謡です。世界的チェリスト パブロ・カザルスは、自身の出身地に伝わるこの曲を、世界の恒久平和を願って、国連本部で演奏しました。

『パンの笛』は世界最古の管楽器といわれています。ギリシャ神話における、牧神パンが吹いたことからそのように呼ばれています。別名「パンフルート」「パンパイプ」「シュリンクス」とも呼ばれています。ここで演奏しているのは、演奏者自身が篠竹で製作したものです」

演奏している動画はこちらです → 鳥のうたカザルスYouTube

ピカソの「牧神パンの笛」

話は元に戻るが、私には聞いてみたいことがあり、3人の話が途切れるのを待っていた。ひたすら、自分の出番を待っていたのだ。

「山内壮夫は、日本でほとんど知られていないパンフルートを、なぜ彫刻のテーマに選んだのか」不思議に思い、聞いてみたかったのだ。

話は途切れず、質問もできなかったがピカソのことが話題になった。話の内容は、私の疑問を解消するヒントになった。 

家に帰るとパソコンを立ち上げ、さっそく調べにかかった。「ピカソ パンの笛」をキーワードにグーグル検索をしたのだ。 

一番に表示された「牧神パンの笛-Asahi」をクリックする。なんと! いきなり素晴らしい絵が目に入った。そこには二人の男性が描かれ、一人はパンフルートを手にしていたのだ。 

それは、美しい写真の様な絵だ。私にとって苦手な抽象画ではなくて好かった。背景には海が見える。美術の知識がない私は、ピカソが、このような絵を描いていることを知らなかった。

疑問は解消した。「『猫とハーモニカ』の謎は解けたぞ!」と胸を張りたいところだが、そうは問屋は卸さない。ピカソの「牧神パンの笛」はかなり知られた話。知らなかったのは、どうやら私だけらしい。

「無知の力」と鈍感力

「これにめげず、中島公園史に残る大発見をするつもりです」
「老後はノンビリ暮らせばいいじゃないか」
「これこそノンビリした暮らしです」
「なに?」
「中島公園を散歩し、本を読み、パソコンで一人静かに検索するのです」
「確かにノンビリした暮らしだが、大発見は無理だね」

「大丈夫! 私には『無知の力』があります」
「なんだと?」
「生まれたばかりの赤ちゃんは無知ですが、無限の可能性を秘めていますね。私は赤ちゃんです」
「ずうずうしいこと言うんじゃないよ。先が短いくせに」
「さて? 何とおっしゃいましたかな。先と申しますと~?」
「アンタ、鈍感力を使ったな。それこそ俺の得意技。倍にして返すぜ!

2011年9月18日「猫とハーモニカ」前でパンフルート演奏

竹笛太郎さんの独奏会の話は期待以上に膨らんだ。ギリシャ神話、牧神パン、山内壮夫、ピカソ、世界最古の管楽器などユニークなキーワードにあふれているのが要因と思う。写真入で新聞に紹介記事が載せられた。

「札幌で18日アマチュア演奏家独演」朝日新聞朝刊に紹介記事

「札幌彫刻美術館友の会」会長が新聞記者のインタビュー応じている。記事は2011年9月16日朝日新聞朝刊30頁に掲載された。見出しは「猫とパンフルートを楽しみませんか」。 

いよいよコンサート当日 公園に響くパンフルートの音色

「札幌彫刻美術館友の会」主催で中島公園ほぼ中央芝生の芝生広場で、この彫刻に因んだ最古の管楽器パンフルート・コンサートを開いた。 


「猫とハーモニカ」前で演奏する竹笛太郎さん。9月18日撮影。

演奏は既にこのページで紹介している竹笛太郎さん。9月18日午後3時から彫刻「猫とハーモニカ」前で開く予定だったが、あいにくの雨。1曲のみ予定の場所で演奏。コンサート会場は近くのあずまやに移された。

詳細はこちらをクリック! → 中島公園新着情報 パンフルート独奏会

2011年9月19日北海道新聞と、朝日新聞で報道される

小雨模様にも関わらず、約25名の方がパンフルート・コンサートを聴く為に、集まった。その模様は、北海道新聞と朝日新聞の朝刊に、それぞれカラー写真付きで掲載された。

ほとぼりが冷めたかと思った頃に道新に関連記事が

コンサートから1ヶ月半たった10月28日「猫とハーモニカ」関連の記事が載った。道新コラム「まど」にパンフルート演奏者と「札幌彫刻美術館友の会」会員との偶然の出会いからコンサートに至るまでのいきさつ。『神様の巡り合わせ』と言うタイトルで次のように結ばれている。

「…横地さんの出張に合わせて企画したコンサート当日。『パンフルートをもっと広めなきゃね』とつぶやいた久本さん。横地さんの演奏を聴きながら彫刻がかすかにほほ笑んだように見えた(北海道新聞2011年10月28日より抜粋)」。

話題が話題を呼ぶ。なんとも人騒がせな「猫とハーモニカ」である。ユニークなネーミングが一役買っている。まさに怪我の功名ではないか。「賢き名付け親」さんに感謝!

野外彫刻劣化防止作業第1弾は「猫とハーモニカ」

1959年建立の「猫とハーモニカ」は、半世紀以上風雨にさらされているので、だいぶ傷んでいる。「札幌彫刻美術館友の会」では、少しでも長持ちさせたいという趣旨で、劣化防止作業を行った。

中島公園近隣の会員が中心になって作業をしている。2010年には、その一番目として「猫とハーモニカ」の劣化防止作業を行った。

そして、2011年には、ネコハモの経験を生かして「母と子の像」を丁寧に時間をかけて行った。私も近所の住民としてお手伝いをしているが、彫刻が奇麗になって行くのを見るのは楽しいものだ。 

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2011年11月26日更新
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エッセー「朝の食卓」ブログ


彫刻がかすかに微笑む? 平川さん撮影。

中島公園の猫に関する投書

中島公園の近所に住む、Eさんから投稿があった。掲示板やメールではなく、我が家の郵便受けにだ。もちろん、私の知っている方。1ヶ月おきくらいで、3通あったので、紹介させて頂く。

子猫のピースケ君

中島公園の片隅で、そのトラ猫はひっそりと生きていました。ノラ猫の子に生まれたことを恨むでもなく、夜は星空の下、昼は草の匂いをかぎながら。

あわれに思う人や通りすがりの人から食べ物をもらうその日暮しの生活でした。頭をなぜても逃げないし、物静かなオス猫でした。星になったのか風になったのか、今はもういません。

ある日こつ然と消えました。心に穴があくとは、こういう事でしょうか。ピースケ君、君がいない毎日は淋しい。

捨て猫トラ子の最後
中島公園の近くに古びたアパートがありました。ある時、取り壊すことになり、その時の住人が捨てて行ったメス猫がトラ猫のトラ子でした。

やがて春になり自分と同じトラ柄の可愛い子猫を2匹産みました。授乳がそろそろ終わりかけた頃、親切な人が見かねて不妊手術をしてくれました。 

麻酔が効き過ぎたのか、体力がなかったのか、トラ子は二度と目を覚まさなかったのです。ゴメンネ、トラ子。トラ子のためを思ってした事が、こんなことになって、どうか恨まないでね。

赤マル母さん
赤マル母さんはお腹の部分が白、背中が赤のたいそう子育て上手な母猫です。それ故、年に2回お産をします。 それが困る原因なのです。

自家用車にひっかきキズをつけたり、民家の周りをウロついたりするので、困った住民がお役所に談判に行ったのです。そして、とうとう避妊手術をさせられる事になりました。

捕獲器にとらわれの身になった赤マル母さんは、悲しげにミャーミャー泣きわめいていました。ゴメンネ、赤マル母さん。無力な私をどうぞ許して下さい。

投稿の終わりに
図らずも「猫三題」となってしまった。この三つの共通点は、筆者の猫への愛である。猫へのエサやりは、非難する人も少なくない。捨てられた猫はどうしたら良いのだろう。

猫に餌をやる人は、捨てられた猫が可哀そうという。餌をやってはいけないという人は餌をやるから、猫が増えると非難する。一方、争いの種を蒔いた人は知らんぷり。言うまでもなく猫を捨てた人のことである。張本人は蚊帳の外。こんなことでいいのだらろうか。

「中島パフェ」管理人である私は、今、中島公園で何が起こっているか中立の立場で伝えたいと考えている。

私の知る限りだは猫にエサをやる人は、避妊手術をしたり飼い主を捜して猫を引き取ってもらう活動をしている。

つまり公園の猫を減らすことが猫の幸せに繋がると考えているようだ。この点に関しては猫嫌いの人と共通していると思う。公園は皆のもの、皆の癒しの空間であることを願っている。 

百花園1958-1997「猫とハーモニカ」


札幌市公文書館所蔵



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